時間があるから晩発性障害が起こっても乗り越えられるというような気休めではなく、それを予防するために現在できるだけの対策を講じておく

大変親切な方から当ブログ4/12「晩発性障害障害は必ず克服できるというふうに私は思っています。」斎藤紀医師についてコメントをいただきました。大切なことだと思うのでいつもより大きくして貼ります。長野県松本市の菅谷市長、すごい!
次の世代への責任 2011/04/19 23:49
NHKの番組で齋藤紀医師の発言を見ました。私自身は、やくざなはんぱ医者ですが、彼の無責任な発言に驚き、怒りに震えました。
 福島の20km圏より外の一部の地域にホットスポットと呼ばれる高濃度の放射線汚染があることはいくつかの独立したグループが指摘していることで確実に存在します。そこには未だに子供達が避難するわけでもなく生活しています。政府もようやく外遊びを避けるなどの対策を少しずつ小出しにしていますが、全く不十分です。
何人もの方が指摘されていますが、その放射能は体の外から浴びる外部被爆では健康にはさほど影響を及ぼすものではありませんが、問題なのは放射性物質が体の中にとりこまれておこる内部被爆です。これは放射性物質が食べ物と一緒に入って吸収されたり、微粒子を肺に吸入しておこります。政府の発表は外部被爆のみを取り上げて安全であると宣伝していますが、内部被爆がおこると、体内で放射線を発して少しずつ細胞の遺伝子を傷つけます。多くの遺伝子の傷は修復酵素によって修正されたり、その細胞が死ぬことによって体から排除されますが、そのシステムは完璧ではなく、ごくわずかながら遺伝子の変異が残ります。その数は、内部被爆の場合には、もとになる遺伝子の傷の数が圧倒的に多くなるため、修復されずに残る変異も数多くなります。
それが10年、20年の間に一定の割合で癌を引き起こしてくると考えられます。これが内部被爆による晩発性障害というもので齋藤医師もその存在は否定していません。体の外についた放射性物質は洗えばとれますが、細胞の中までしみ込んでしまったら容易にはとれません。一生それを抱えて生きて行くしかないと思っていただいてもいいです。ですから余命の短い大人はあまり影響を受けませんが、それを抱えたまま長い人生をおくる子供達にははるかに大きい影響を与えます。体の中で弱い放射能を発し続け、ずっと遺伝子に新たな傷をつけ続けるのです。
最もはっきりしているのはチェルノブイリ事故の後の放射性ヨードの摂取による子どもの甲状腺癌ですが、その他の癌については放射性セシウムストロンチウムによる発癌が考えられています。しかし、これらは何十年もかかって現れてくるのでチェルノブイリの25年の経験からもまだ明らかにはなっていません。齋藤医師は原爆症の方々をみてきたとおっしゃるのかもしれませんが、原爆と原発事故では出てくる放射性物質の質も量も違います。(以下は佐賀大学の物理の教授のブログです)

http://pegasus1.blog.so-net.ne.jp/2011-04-06
しかもその結果は、癌という治療が遅れれば致命的となる病気です。片方で晩発性障害の発生を否定せず、なおかつ晩発性障害が出る頃には癌が治る病気になっているだろうというような希望的な観測を語る齋藤医師は犯罪的であるとすら思えます。
 チェルノブイリまで行ってきた齋藤医師の言葉をどう思うかと言われるのであれば、以下にある松本市の菅谷昭市長の記者会見でのコメントを是非見ていただきたいと思います。(上の記者会見の後半の方です。下は彼のプロフィール)

http://www.city.matsumoto.nagano.jp/aramasi/sityo/kaiken/teirei20110322/index.html
http://www.apra.jp/shinsyun-koen-m/koshi01.htm
彼のことは既にご存知かもしれませんが、甲状腺癌を専門とする外科医として信州大学助教授をつとめた後、チェルノブイリの影響による甲状腺癌に苦しむベラルーシの子供達を救うために、その職を捨てて手弁当で5年半にわたり現地で医療活動に当たられた方です。そののち松本市長に選ばれた彼が、現在の福島の汚染状況を踏まえた上で、汚染地域では妊婦や子供を守る必要があると提言しています。もちろんこの会見の時からかなり状況は変化していますが、齋藤医師の言葉からはこのような危険性に対しての提言は、気休め以外にまったくありません。
 念のため申し添えますが、私は今回の事件が起こるまでこのお二人のいずれも存じ上げませんでした。しかし、メディアでの二人の発言を聴き、菅谷市長の意見にはいたく感銘し、齋藤医師の発言には怒りに震えました。齋藤医師は社会的混乱を避けるためというような何らかの意図を持って、オブラートに包んだような話し方をしているのかもしれませんが、あたかも危険が存在しないような印象を与えるメッセージを発するのは私としては許せません。彼が主治医としてとても良い医師であると言う人もいますが、それは真実でしょうし非常に結構なことです。しかし、それと彼のこの発言は全く関係のないことです。こちらのブログで「澄んだ目をした先生」と書かれているのにも非常に違和感を覚えました。今、緊急に問われているのはそういうことではないのです。直ちにパニックになるようなことを発表しろと言っているのではありません。早急に、正確で綿密な測定に基づき適当な方法で必要な対策をとるべきだと言うことです。政府は計画的避難という言葉でようやく対策を始めたように見えます。いつもの常套手段としてまず安心させるような情報を流し、少しずつ危険を明らかにして行くつもりかもしれません。しかし、そのやり方はあまりに遅すぎるように見えます。放射能は放出されたあと1週間、1ヶ月が最も強いのです。
 それと、私の理解が間違っているかもしれませんが、齋藤医師は原子炉で身を挺して働く人たちに共感してほしいと述べ、それがあたかも、一般国民に対する放射能の影響を憂慮することと対立することのように述べていることに強い違和感を覚えます。現場で日夜危険に身をさらしている方々とその御家族の御苦労には深い尊敬と感銘を受けます。もちろんこの方々が一刻も早く安心して暮らせるような状況になることを祈っています。しかし、それと子供達の安全を守ることとは全く別問題です。
 今できる最も確実なことは、時間があるから晩発性障害が起こっても乗り越えられるというような気休めではなく、それを予防するために現在できるだけの対策を講じておくということです。そういう意味では齋藤医師の発言は、津波は来ないから大丈夫と言っていた東京電力と同じとしか思えません。以上のようなことから、齋藤医師とは全く異なる意見も存在するということを理解していただきたく、彼の言葉を鵜呑みにすることの危険性も知っていただきたいと思い、このコメントを送らせていただきました。長文で失礼致しました。