サッカーを見るたびに

だんなが同僚に頼み込んで勤務を代わってもらってテレビにかじりついていた。部屋の電気を消してテレビだけが光っていたので、声をかけずに見守った。ワールドカップカメルーン戦、勝ってよかったね。朝「おめでとう!」と声をかけたら、「俺に言われても・・・」なんて言いながらうれしそうだった。
彼はサッカー部だった。あの頃「ウィニングイレブン」というサッカーのゲームが流行っていて、うちのだんなはオタクの意地にかけて戦いに挑んだが、サッカーやっている人には到底かなわなかった。だから彼が死んだとき、だんなは口をへの字にして静かに泣いた。近くにいたのに想い出が少ない。その思い出はもう作れない。でも私たちはサッカーを見るたびに彼の優しい微笑を思い出す。そしてこっそり持って帰ってきた黄色のTシャツだけが、彼の形見。